母親が本を返さないといけないというので急いで読了。なので大抵二度は読んでからレヴューするというポリシーに反するのですが。
でもこれは乱歩賞受賞直後から気になってた作品。歴代受賞者の錚々たる顔ぶれから数あるエンタメ系新人賞の中でも当たり外れの無いといわれてきた(最近ではこのミス大将に追い上げられている感はありますが)乱歩賞受賞作の中でもこれは近年稀に見る『当たり』らしく、各紙書評で絶賛、講談社も相当宣伝に力を入れていたようで【笑】地元の図書館に入ったと知って小躍りしたものです。それを今の今までほったらかしていたのですが【爆】

少年犯罪と被害者、そして贖罪という骨太の問題を真正面から扱っただけあって、これがデビュー作とは思えないほどの読み応え。
それ以上に描写のこまやかさには兜を脱ぎました。もう降参、お手上げ、敵いません。特に妻を殺された主人公が、それまで状況をまるで絵空事のように感じていたのを、突然その現実に圧倒される場面。作者はそのような経験をしたことがあったのか!?と思わせるような筆致にただただこちらが圧倒されてしまいました。店主にはこんなの書けません。

ただ――こんなこと言う店主にはミステリーを読む資格は無いのかもしれませんが、余りにも総てが一本の糸に収斂してしまう展開に違和感を覚えてしまいました。
かつて幼馴染みを中学生の少年に殺されてしまった少女が長じてふとした偶然から人を殺めてしまい、その弁護人となったのが更正したかつての加害少年であるという偶然や、そもそも両親を交通事故で失い加害者に未だ憎しみを抱えている男と殺人を犯したという罪の意識を抱えた少女がそうと知らずに出会い結ばれるといった展開は、それだけテーマをより濃いものとしている効果はあるもののまるでファンタジー。
珠と牡丹の痣、そして姓に同じ犬の字を持つ兄弟を探してるんじゃないんだから。
ミステリーには余分なものを書かないのがルールとはいえ、実際の犯罪の物証はときに事件そのものと無関係なことだってある。
そして人間、同時にAという問題とBという問題を抱えていて、それらはフィクションのように交差することは無くそれぞれ独立したまま展開していくということは多々あること。
それで、こんなこと言うのは我田引水かもしれませんが、『相棒』なんかはときどきそういうところをしっかり押さえていたのが好感が持てる。
?の『ありふれた殺人』や『予告殺人』、?の『アゲハ蝶』なんかは捜査一課が大抵ある線で捜査しているにもかかわらず、特命係がそれとはまったく別の違う線から真相を見出すというストーリー(だったはず)。
むしろ現実というものはそういうもんじゃないでしょうか。

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