Get wild and tough!

2006年4月30日 読書
母が新刊コーナーから借りてきたものの中で面白そうだと思って読んでみたら
今の自分にはかなりツボだった。

主人公はごくごく平凡なサラリーマン、
会社じゃ窓際、家族はバラバラ状態。
しかしひょんなことから変身願望に火がつき、
そして亡命者の少女を守るために自ら武器を持って立ち上がる――
早い話が普通のオジサンがシティーハンターになってしまったような、そんなお話。
ただ単に「CH二次創作の肥やしにでも」と思って読み始めたらグイグイ惹き付けられた。
特に彼が日常の中で失われていた『野性』を取り戻すプロセスは
読み進めながらふと自分の妄想に立ち返ったりと刺激になった。
また、彼と行動を共にする『アネックス』の面々もヴァラエティ豊か。
凄腕のハッカーだったり自衛官だったり、レーサー上がりの運ちゃんだったりと、スペシャリストネタのツボもきちんと押さえてます。
まさにアクション映画を見ている感じ。
しかしそれは決して映画のような絵空事ではない、
我々の日常と地続きのものとして描かれている。
その日常の瀬に立つのが、森村作品でおなじみの棟居刑事。
彼は警察という法と秩序の側から亡命者をめぐる殺人事件を追いかけていく。
この対比が『野性の条件』において最も興味を引かれるものなのではないか?
例えば、激しい銃撃戦によって廃墟となった建物、
『アクション映画』視点ならそれはありふれた光景だ(といっちゃあなんだが)
しかし、そこに刑事が訪れると一気に読者の目は日常へと引き戻され
廃墟の非日常性が浮かび上がる。
正義の暴力か無力な法かという二項対立は
CHでも刑事だった槇村が直面したように根深いものだ。
結局最後はアクション映画のセオリーに掠め取られてしまった感はあるけど
それでも最後にチクリとした毒を残した。
主人公は安定した生活から抜け出すために変身しようとした。
その結果もたらされたのは嵐のような日々と、その後に続く新たな安定だった。
しかし彼は再び安定に飽いてしまうのではないか?
映画のラストなどでも、主人公は非日常を経て、新たな日常へと戻っていくが
一度文字通り“劇的”な非日常を体験してしまった彼/女が平凡な日常へ順応できるだろうか?と思うことがある。
そう思わせる、つまり結末が『閉じて』いる映画は得てして駄作だ。
いいラストとは観客にその続きを想像させるものだ。
その点パトやCHはいいラストだったよなぁ、
見ている側も今も彼らが同じように日々を送っていると想像させるから。

見え透いた予定調和じゃ終わらない、ただのエンターテインメントではないラストだといえる。

ちなみにネタバレになるが
ラスボスの長身で掘りの深いマスクの、実は『死神』と呼ばれた伝説的な殺し屋にふと冴羽氏の面影を重ねてしまいました。
ほんとにどーでもいい蛇足。

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